東京国税局課税第二部の料調一課の調査着手については、原則として予告のないまま行われます。約30人の体制によって、法人の本社・支店・工場・営業所・代表者自宅だけでなく、状況次第では取引銀行も含めて一斉に着手することもあります。
本社には規模にもよるのですが約7~10人の実査官が朝の9時前には集合しています。着手予定の支店工場等についても何人かの実査官が準備を整えています。事案の担当主査は各地に散らばっている実査官と連絡を取りながら、9時に各地で一度に調査に着手することとなります。
代表者の自宅にも足を運ぶ理由として、代表者が在宅している可能性があることが挙げられます。代表者にできる限り早く対面し、調査に着手することを伝え、調査を行うことについて承諾を得る必要があるのです。家捜ししようと足を運ぶのではありません。
このように着手すると、各現場では実査官が、法人の経理部・営業部等のそれぞれの責任者から普段の業務内容に係る聞き取り調査を実施します。このことは、概況の聞き取り調査と呼ばれます。
概況聞き取りを終えたら、代表者の承諾を取り付けた上、事務室内の現物確認調査をします。キャビネット内に入っている日々の業務関係資料や金庫内の現金、重要書類、机の中の書類、印鑑等を検査します。以前、現物確認を行っているときに、書類を持って逃走しようとする社員がいたり、急に代表者が書類を破り始めたりしたこともあります。こういうことによって、重要書類をすぐに把握することが可能ですので、調査する側には都合がいいことだったのですが、最近はこういう話を聞くことはなくなりました。
このようにして集まった書類に目を通すのはその場ではありません。全てが会議室といった別室に運び込まれて、実査官が読み込みをします。これを、物読み(ぶつよみ)と呼びます。物読みで、経理操作が示されたメモや表向きの経理書類ができる前の真実が記載された書類等が発見される場合があります。こうして不正計算の手がかりが見つかり、後に、全体像が明らかになって、修正申告をすることにつながります。
本当のことが記載された書類等を破り捨ててしまえば、不正がばれることはないだろうと判断するべきではありません。社員の中に、保身や責任逃れのために会社内のどこかに不正書類を保管している人が絶対にいるはずです。そこから発覚するのです。
調査期間は、現物確認調査・物読みに約1週間かけた後、翌週に人数を縮小して問題点のまとめを行い、要修正項目を指摘、説明し、代表者の理解・納得が得られたら、修正申告書を提出するよう指導します。
当局から修正申告が必要とされる項目について、社長であるあなたが指摘を受けたとしたら、どのような感情を持つでしょうか。思いがけない問題を提起される可能性もあります。棚卸資産の計上について社員が社長の指示通りに行わなかったことはありませんか。回収可能な売掛金を貸倒処理していたり、営業部が当期の売上の予算を達成してしまったことから当期に計上しなければならない売上を意図的に翌期に繰り延べたりしていませんか。
税金をごまかそう等という考えが社長になくても、社内で不適切に経理処理がなされている例はよくあります。税務調査において会社の経理処理の不備について指摘を受けるケースは少なくありません。社内の経理・業務の見直しを行ういい機会であると、税務調査を前向きに考えましょう。これが、税務調査の正しく上手な受け方です。