東京国税局の例では、課税部、調査部、査察部が税務調査を担当しているセクションです。各部はいくつかの課に分かれていて、各課は分掌事務を持ち、法令により決められた調査事務を担っています。各部が担う調査については、個人及び資本金が1億円未満の法人、公益法人等の調査については課税部が、資本金が1億円以上の法人の調査については調査部が、国税犯則取締法に基づくいわゆる脱税事件の調査(個人、法人を問いません)については査察部が、それぞれ担当しています。
これらの部のうちの課税部について、各課の所掌事務はどのようなものでしょうか。
東京国税局の例では、課税部には課税第一部と課税第二部が置かれています。
課税第一部は、課税総括課、審理課、個人課税課、資産課税課、機動課、資料調査第一課、資料調査第二課、資料調査第三課、資料調査第四課、国税訴務官室から成ります。課税第二部は、法人課税課、消費税課、資料調査第一課、資料調査第ニ課、資料調査第三課、酒税課、鑑定官室から成ります。
これらの課のうちの資料調査各課・機動課は、もっぱら税務調査を担当しています。
課税総括課は、課税部各課が担う事務の総合調整的な役割を果たしています。すなわち、法人税や所得税等の調査事務の基本的な運営方針の企画及び立案に関すること、これらに関わる資料情報についての事務の管理に関することを担っています。そして、これに関わる事務で、国税局長の特命事項に係る事柄の指導及び監督並びにこれに必要な調査及び検査に関する、平たくいうと、大規模法人・大口個人の調査の指導監督を担っています。指導監督というのは、税務調査を行って納税者に適正な申告を求め、納税者全体の申告水準の向上を図ることを意味します。
1.課税第一部
課税第一部の資料調査各課が担当している事務は、次の通りです。
(1)資料調査第一課
規模が大きいこと等により税務署が調査することが困難である所得税の事案を調査しています。すなわち、富裕な個人の税務調査をもっぱら担っています。また、いわゆる有名人の所得税の調査も担っています。経済界以外についても、世の中で有名人と呼ばれている各界の有名人を調査しています。
確定申告の相談会場等では、相談しようと訪れた納税者の方が税務職員に対し、「私たち貧乏人から税金を取らずに、テレビに出ている有名人から税金を取るべきだ」等と主張しているのがしばしば見られますが、当局は有名人についてもきちんと行っています。
(2)資料調査第二課
規模が大きいこと等により税務署が調査することが困難である相続税の事案を調査しています。複雑な申告内容で巨額な金額の相続税や譲渡所得税の調査を担っています。ただし、調査に立ち会った経験から、金額が巨額である場合でも土地や分かりやすい金融資産の相続税事案については、もっぱら所轄の税務署が担っているということがいえます。一方、資料調査第二課は、相続財産が同族会社の株式であるといった事案、名義株(株主の名義を借りた所有者が別にいる株式)と思われるもののその株式の真の持ち主は誰であるのか、子供の名義になっているけれど本当の持ち主は亡くなった親でその株式が相続財産から漏れているのではないかといった調査を担っています。
旧商法においては、会社を設立するには株主が7人必要でしたので、自分以外に株主を6人探すことが必要とされました。ゆえに、実際には出資していないにもかかわらず、奥さんや子供を株主にし、会社の設立をしていました。これは、いわゆる名義株に当たります。会社が大規模になるにつれて、それぞれの持株数も増えていき、株式の価値も高まっていきます。計画的に奥さん・子供への贈与をしたり、株価が安いうちに買取らせたりして、贈与契約書・売買契約書を保管しているのなら、名義株ではなく実質的に所有されている株式になりますが、実際にはなかなかそのようにはなっていないといわざるを得ません。名義株として課税の対象とされるのを避けるには、適正な贈与申告や、適正な売買価格による買取りを行うことが必要です。
実際には、税務調査はどのように行われるのでしょうか。
会社の代表者が存命中に奥さんや子供に対し、同族会社の株式を贈与したというケースについて、当局にはどのようにして贈与の事実を客観的に示せばいいのでしょうか。贈与税の申告をしていればいいのか、贈与契約書をつくっていればいいのか、贈与した金額が非課税額の範囲内のときは贈与税の申告をしていなくても贈与だと主張できるのでしょうか。
また、贈与を受けた相続人について、その時点における年齢も問題となります。「30年前に株式をその時点で10歳の子供に贈与しました。ゆえに、名義株ではなくその子供の株式です」と主張すれば、通用するでしょうか。その時点で大学生の子供と株式の売買契約書を作成したときには、お金を、アルバイトで稼いだと説明するのか、それとも、お父さん(被相続人)から借りたと説明するのでしょうか。
親族の間で財産の贈与・売買の事実があったことを、課税当局に納得してもらえるように説明することは、非常に困難が伴います。贈与税の申告書も、もしかしたら子供(相続人)には内緒でお父さん(被相続人)が記載し、税務署に提出したものかもしれません。贈与契約書や売買契約書についても、被相続人が一人で記載したものである可能性を否定できません。公証人の面前で公正証書にした場合でも、子供に贈与の認識・売買するという真の意思があったと証明することは非常に難しいといわざるを得ません。
民法上、贈与を受ける側の意思が大切にされています。課税当局も、贈与を受ける意思・受諾があったか否か、又は、財産権の移転を受けてその代金を払うことを約するという事実が客観的に認められるか否かを判断基準にしているといえるでしょう。適法に贈与・売買が行われたか否かの判断をすることは、課税当局にとって困難を伴うものと考えられます。
適法に売買・贈与がなされたことを納税者側が説明するためには、何をすればいいでしょうか。株式の贈与を受けたら、贈与税の申告書を提出しましょう。ただし、提出するだけでは十分ではありません。贈与してくれた人(お父さん等)が亡くなり、税務調査が終わるまで、その贈与税の申告書をなくすことなく持っていることが大切です。それは、税務署の申告書の保管期限は7年間ですから、あなたが保管していない場合、申告した事実を証明することができないという状況になりかねないからです。株式の売買をしたら、払ったお金の流れを預金通帳等で明らかにした上、売買契約書を締結しましょう。売買契約書も保管しておくことが大切です。これらを基に、当局には丁寧に説明して、理解を求めることが重要です。
(3)資料調査第三課
資料情報事務を担っています。他の税務調査に役立つような資料の収集を担っています。税務調査に当たって調査官が使うことが可能な取引資料を収集することが、元来、資料調査課の大きな役割になっています。
法人は、毎年1月末が提出期限である法定調書の提出を求められることがあり、その資料の取りまとめを担っています。また、税務調査に当たって調査官が収集する仕入れ・外注費・交際費等の資料の取りまとめを担っています。
(4)資料調査第四課
外国人の個人所得税の調査を担っています。日本国内に暮らしている外国人は数多く、外国人の税金はどうなっているのかと気になる方もいると考えられます。しかし、資料調査第四課はきっちりと課税をしています。
(5)機動課
相続税事案の調査を担っています。所得税・法人税の申告件数は税務署によって大きな変動があるわけではありませんが、相続は所轄の税務署ごとに一定の割合で発生するといったものではありません。したがって、相続税の申告書の件数については、どの税務署でも年によって増減があり、税務署による違いもあります。ゆえに、調査が必要であると認められる相続税事案の数が多い税務署に実査官が出向いて、その税務署の調査官と一緒に調査を行っています。
2.課税第二部
課税第二部の資料調査各課が担当している事務は、次の通りです。
(1)資料調査第一課
売上規模100億円超のような大規模な法人であること等によって税務署が調査するのが難しい事
案の法人税や消費税等の調査を担っています。
(2)資料調査第二課
所属している実査官が、各税務署の調査官と共に、合同で法人税や消費税等の調査を担っています。
(3)資料調査第三課
資料調査第一課の担当の法人よりも売上金額が多額であること等によって税務署が調査するのが無理である法人の法人税や消費税等の調査を担っています。一課との相違点は、税務署所管法人ではあるものの売上金額が400~500億円以上もあるような法人を調査の対象とすることです。また、大規模源泉徴収義務者や公益法人等の調査を担っています。
上記三つ以外の各課、個人課税課、資産課税課、法人課税課、消費税課については、税務署のそれ
ぞれの事務系等の調査部門の主務課といわれていて、税務署の指導する役割を持っています。